中小の介護事業所の経営者の悩みで多いものの三つめは業績に関することです。業績を上げるために、様々な方法で対応されていると思いますが、なかなか効果が上がらないと感じておられる方も多いのではないでしょうか。介護保険の事業はサービスにかかる部分の介護報酬が決められていますので、利益が出しにくいことが特徴です。しかし、全く利益が出せない事業ばかりでもないのです。
経営者の方が必死になって、あーしよう、こうしようと指示をすればするほど現場との温度差を感じていらっしゃる方もいるかもしれませんね。実はそこに落とし穴があるのです。
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経営の原点は利益を出すことです。利益を上げるためには売上を上げるか費用を削減する必要があります。費用はある程度は必要なものです。したがって、売り上げを上げ続けないと、利益を増やしていくことができず、事業は拡大することはできません。社員の給与を上げることもできないことになります。
介護事業の売上を上げる方法
1.サービス回数を増やす
事業所全体のサービス回数を増やす方法は、
①一人の利用者の利用回数を増やす
②利用者の数を増やす
の2パターンです。どちらが良いのかというと、どちらも必要です。難易度は今ご利用されているご利用者の回数を増やすようなアセスメントにより、ケアマネジャーや本人、家族に増やすようにお話しするほうがや低いと言えます。
しかし、そのアセスメントが単に事業所の利益を優先してに行われたものであれば、これは決して許されるものではありません。
利用者にとって有益であることや自立支援の促進につながることなどが前提であるものとなります。また、一人の顧客の回数を増やすことだけに依存していると、そのご利用者が何らかの理由でサービスを中止するような事態になった時のダメージが大きくなってしまいます。
したがって、利用者の数を増やす努力をしなければなりません。
そのためには、現場のスタッフ力が不可欠になります。なぜなら、ケアマネに事業所を紹介してもらって利用者を増やしていくためには、ケアマネに必要とされる、または気に入られる事業所にする必要があるのです。ケアマネジャーが利用者にあなたの事業所を進めたくなり理由を考えることができるようになることが必要なのです。おそらく、経営者一人の力ではどうにもできないことに答えがあると気が付くはずです。
2.顧客一人当たりの単価を上げる
顧客単価を上げる方法としては
①加算を取る
②介護度別に報酬が定められているメニューでは平均介護度を上げる
③サービス提供時間を長くする
④訪問介護では生活線所ではなく身体介護の受注を増やす
⑤介護保険外サービスを提供する
が挙げられます。
①についてサービス体制加算や特定事業所加算、機能訓練加算などを取得することは、介護報酬が増えることだけでなく、事業所の質の評価の証としても必要なことです。
また、2019年10月の介護職員等特定処遇改善加算においては加算要件を満たしているのかいないのかによって事業所へ入ってくる介護報酬が大きく違ってきます。この加算により得た介護報酬はすべて介護職員に還元するものですが、ここで給与の格差が生じることになるため、体制を整えておくことが必要となります。2020年以降今までのツケが回ってきて職員を集められない事業所と介護職の給与を増やすことが出来る事業所の二極化が進むことは必至です。
②についてはきちんと管理されていますか。平均介護度を上げるためには介護度の高い方に向けたサービスの提供が必要になります。例えば、リハビリ特化型のデイサービスなどでは介護度の低い利用者が集まる傾向になります。定員が増えると職員の数も増やす必要があるため必然と利益率が下がります。
小規模多機能型居宅介護やグループホームなどのように1事業所で受け入れられる数が決まっている場合も、平均介護度が低いと介護報酬は連動して低くなり、利益が出にくい構造になっています。かといって、介護度の重い人ばかりの事業所では介護職員が疲弊して不満が噴出します。
何事もバランスは必要ですが、まずは、しっかりと管理することが重要です。
③と④については上でも述べたように事業所都合になっていないことが大前提です。ご利用者の目線で考えずに自分たちの利益を追求するような事業所は生き残りはケアマネや地域を敵に回すことになりかねません。
⑤については可能なことは積極的に行うほうが良いと思います。現在はまだテスト段階の混合介護ですが、近い将来もっと展開が進み、介護保険以外のインフォーマルサービスの位置づけが必要とされていくことは明らかです。本格稼働しないまでも、何ができるかの準備やテストはしておくに越したことはありません。
費用を削減する
費用のコントロールは介護事業においては重要になってきます。しかし、何でもかんでも削減すればよいというものではありません。ここをはき違えている経営者が人材不足に悩む事業所に多いと感じています。
介護事業の費用のうち金額の大きなものは、人件費、消耗品費、水道光熱費、採用費、などが挙げられます。どの項目もなるべく費用をかけたくないです。なるべく費用をかけたくないの意味は分かりますか?必要な費用までも削減をしてはいけないという意味です。
では、具体的にどのような方法があるかを例で示していきます。
人件費の削減
人件費は削減するという考え方ではなく、費用をかけないという考え方にするべきです。残業代を支払わないのではなく、残業が発生しない仕組みを作ります。人手が足りないために残業が発生するのは当たり前ですよね。そもそも人手不足でその分の人件費は浮いているはずなのです。
それなのに、残業代を支払わないなどということは論外です。記録物が多すぎないか、各職員の業務や動きが決まっておらず効率が悪くないかなどの見直しを図って行きましょう。
ここで、注意が必要なのは、経営者がそう考えていなくても現場のリーダーや管理者が勝手に残業カットをしている場合があることです。知らず知らずのうちにブラック企業にされていることも実際に見受けられますので、注意が必要です。
そのほかの人件費を減らす方法ですが、人が辞めない職場づくりに尽きます。派遣社員ではなくパート社員を雇用できるように出来れば人件費は抑えることができます。
消耗品はなるべく安く購入する
消耗品に関しては価格の比較をしっかりと行い、なるべく安く購入する方法を考えましょう。安いからと言って遠くのお店に足を運ぶのは本末転倒です。商品そのものの価格だけでなく送料などにも留意が必要です。ご利用者に使っていただくものもサービスのし過ぎがないかも要チェックです。
職員が使用するゴム手袋はもちろん事業所で購入する必要がありますが、おうちに置きっぱなしにしていたため、ご家族や他の事業所のスタッフが使用していたという訪問介護事業所もありました。
また、使っていない場所の電気はこまめに消したり温水便座の温度の管理などもチリと積もればで節約の習慣化をみんなで実施する意識も大切なことです。消耗品や光熱費は細かいところをチェックして削減を図って行きましょう。
採用にかかる費用は大きい
慢性的な人員不足の事業所はどのようにして求人広告を出していますか。求人の方法は様々な種類がありますが、金額も無料に近いものから数十万円かかるものまで幅が広いです。
ただし費用をかけたくないからと言って、無料のものばかりでは効果が上がりにくいですし、お金をかけたからと言って全くヒットしなかったということも多々あります。ここで、最低限必要なのは自社のがホームページどのようなものかということと、求人広告の内容が求職者が知りたい内容になっているかどうかということです。
何かで求人を知った求職者は今はその事業者のホームページを調べるのが一般的です。しかし、そのホームページが魅力のないものだったり、長い間放置されれいるような内容だったらどう思うでしょうか。求人広告にしても、自分たちの事業所はこんなに素晴らしいと訴えたい気持ちもわかりますが、その内容が本当に求職者が求めている内容に合致しているのでしょうか。
自分たちのアピールばかりでは結局アピールできていないのと同じことです。働きやすい職場なのか、休暇の実績や研修の体制などはどうなっているのかなどを知りたいものですがそのあたりのことにもちゃんと触れていますか。求人広告のスペースだけでは書ききれませんのでやはり自社のホームページに誘導して良さを分かってもらうのが採用を促進できるポイントになってきます。
そのうえで、どの媒体が効果があるのかを調査していくことも必要になってくるでしょう。求人サイトや紹介会社を活用する際にも余分にお金を出せばそれなりに対応が変わります。どこにお金をかけるかの判断は難しいですが、費用対効果を考えながら慢性的な人員不足をリセットする判断が必要なこともあります。
このように業績を上げるためにはいろいろな工夫やリサーチ、判断が必要になってきますが、経営に関する目標値や現状をスタッフと共有することが重要になってきます。少なくとも管理者や現場のリーダーは自分の事業所の状況を知っておく必要があります。そのうえで、自分たちに何ができるのかを考えてもらわなければなりません。
一生懸命営業をして、やっと契約に取り付けたご利用者に対して、満足感を得られないサービスを提供すればご利用者を怒らせ、一瞬にしてその努力が飛んでいく場合もあるのです。現場の行動が変われば売り上げはついて来ますし、まずその意識を持たせることが必要になります。
ポイントは経営者が直接ではなく、中間にいる人が行動に変化を起こすための方法を現場のスタッフと一緒に考えるような仕組みにすることです。トップダウンで行動を変えようとすると必ず反発が来ますが、自分で考えたことだと、自然と変化が起こせるものです。経営者はその進捗を確認していけばいいのです。
何でも自分でやろうとするのではなく、現場の力をうまく利用しながら業績を上げられるようにしていけるのが、真の経営者の姿と言えます。